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名古屋地方裁判所 平成5年(わ)156号 判決 1995年12月19日

本店所在地

名古屋市東区東桜二丁目三番七号

有限会社岩佐

(右代表者代表取締役 岩田直志)

本籍

名古屋市守山区西新一九〇四番地

住居

名古屋市守山区西新一九番七号

会社役員

岩田直志

昭和一〇年三月一六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  被告人有限会社岩佐を罰金七〇〇〇万円に、被告人岩田直志を懲役二年六月にそれぞれ処する。

二  被告人岩田直志に対し、未決勾留日数中三〇日をその刑に算入する。

三  被告人岩田直志に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

四  訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告有限会社岩佐(以下「被告人会社」という。)は、名古屋市東区東桜二丁目三番七号東カンビル四一二号室(平成三年八月二七日までは、同市守山区西新一九番七号)に本店を置き、不動産取引業を目的とする資本金二〇〇〇万円(平成二年五月一日までは二〇〇万円)の有限会社であり、被告人岩田直志(以下「被告人岩田」という)。は、被告人会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人岩田は被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年五月一日から平成元年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が七五八七万七〇三六円であったのにかかわらず、平成元年六月三〇日、名古屋市北区清水五丁目六番一六号所在の所轄名古屋北税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が一二八七万九八〇四円で、これに対する法人税額が四四三万六八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三〇八九万六〇〇〇円と右申告税額との差額二六四五万九二〇〇円を免れ、

第二  平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が二億二五五九万二四六七円、課税土地譲渡利益金額が二億四九九四万五〇〇〇円であったのにかかわらず、平成二年七月二日、前記名古屋北税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が一九七七万二五三九円、課税土地譲渡利益金額が一六四六万七〇〇〇円で、これに対する法人税額が一一九六万一八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一億六四三三万三二〇〇円と右申告税額との差額一億五二三七万一四〇〇円を免れ、

第三  平成二年五月一日から平成三年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億二二〇二万九八九八円、課税土地譲渡利益金額が一億九一四四万四〇〇〇円であったにもかかわらず、平成三年七月一日、前記名古屋北税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が二八二四万四八三三円、課税土地譲渡利益金額が零円で、これに対する法人税額が九七八万二一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一億〇〇五〇万八〇〇〇円と右申告税額との差額九〇七二万五九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人会社代表者である被告人岩田直志の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人会社代表者である被告人岩田直志の供述部分

一  被告人岩田直志の検察官に対する供述調書四通(乙2、21、23、24)

一  松下茂(甲5)、川口一郎(甲9)、林隆夫(甲10)、及び穂積孝志(甲125)の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書二通(甲8、169)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一二通(甲135ないし146)

一  名古屋東税務署長作成の証明書(甲4)

一  登記簿謄本(乙26、被告人会社につき)

判示第一、第二の事実について

一  篠田昭の検察官に対する供述調書(甲26、謄本)

一  株式会社三重銀行中村公園前支店支店長作成の証明書(甲42)

一  検察官作成の捜査報告書(甲48)

判示第一の事実について

一  第二回公判調書中の被告人会社代表者である被告人岩田直志の供述部分

一  被告人岩田直志の検察官に対する供述調書五通(乙3ないし7)

一  松下茂(甲6)、佐々木章夫(甲11)、寺西直美(甲12)、津田啓司(三通、甲14、15、19)、足立武(甲16)、永井孝則(二通、甲17、25〔謄本〕)、大堀一夫(甲20)、越喜邦(二通、甲22、43、いずれも謄本)、岩瀬貢(甲27)、後藤昭一(甲28)、伊藤茂(甲29)、中村重雄(甲30)、西川豊子(甲31)、石橋隆男(甲32)、秋田ひさゑ(甲33)、原甫(甲34)、大野泰秀(甲35)、青山修(甲36)、佐藤大二(甲37)、金山秀吉こと金秀吉(甲38)、多田憲司(甲39)、柴田忠雄(甲40)、平野喜重郎(甲44)、和田正司(甲45)、春日井勝司(甲46)、及び高橋章(甲47)、の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書四通(甲13、18、21、41)

一  名古屋北税務署長作成の証明書(甲1)

一  一宮税務署長作成の証明書二通(甲23、24、いずれも謄本)

判示第二の事実について

一  第三回ないし第七回の各公判調書中の被告人会社代表者である被告人岩田直志の各供述部分

一  被告人岩田直志の検察官に対する供述調書八通(乙8ないし11、13ないし16)

一  被告人岩田直志作成の上申書(乙17)

一  証人越喜邦の当公判廷における供述

一  越喜邦(六通、甲49、54、55、61、72、81、いずれも謄本)、永井孝則(甲50、謄本)、加藤周一(甲51)、多田憲司(三通、甲52、59、69)、水野明(甲56)、渡辺まつを(甲57)、三輪清光(甲58)、大崎喜之(甲62)、三輪尚(二通、甲63、64)、上野道治(甲65)、阪井照夫(甲66)、武田富雄(甲68)、鈴木正則(甲71)、永尾玲子(甲75)小南旭(三通、甲76ないし78)、小松徹(甲79)、辻登美子(甲82)、武藤雄一(甲83)及び北浦伸二(甲153)の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書六通(甲53、60、67、70、80、84)

一  名古屋北税務署長作成の証明書(甲2)

一  一宮税務署長作成の証明書二通(甲73、74、いずれも謄本)

一  日本モーゲージ株式会社大阪支店支店長作成の回答書

一  押収してある元帳一冊(平成六年押第四三号の七)

判示第三の事実について

一  被告人岩田直志の検察官に対する供述調書五通(乙12、18ないし20、22)

一  田村和雄こと姜和中(甲85)、多田憲司(甲86)、西尾智津子(甲87、謄本)、畑中眞伸(甲89)、永井孝則(三通、甲91ないし93、いずれも謄本)、林健吉(甲95)、青山喜美子(甲96)、山森昌勝(三通、甲97ないし99)、河合泰文こと河泰文(甲100)、大崎晴由(甲101)、松下忠男(甲102)、澤田卓(甲104)、林亨(甲105)、安部武臣(二通、甲106、107)、竹内直剛(甲108)、北沢隆夫(甲109)、伊藤文人こと伊藤良雄(甲110)、越喜邦(甲112、謄本)、足立稔(甲113)、野村則夫こと盧武夫(甲114)、川本豊(甲115)、永井孝則(三通、甲117、119、129、いずれも謄本)、玉水浩(甲118、謄本)、秋田修一(甲120)、山森昌勝(甲121)、松原宗雄(甲122)、松原卓也(甲123)、北川清一(甲124)、日比美奈子(甲126)、伊藤喬茂(甲130)及び阪野正(甲132)の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書九通(甲88、90、111、116、127、128、131、133、134)

一  検察事務官作成の電話聴取書(甲103)

一  名古屋北税務署長作成の証明書(甲3)

一  名古屋西税務署長作成の証明書(甲94、謄本)

一  押収してある元帳一冊(平成六年押第四三号の二)

〔争点に対する判断〕

(大阪岩佐ビルについて)

一(一)  関係各証拠によれば、<1>被告人会社は、昭和六二年一〇月二〇日ころ、大阪市西区北堀江二丁目二番三、四番五所在の合計約五〇坪のビル用地を古久根建設株式会社から購入し、この土地に一〇階建てのビルを建築したこと、<2>被告人会社は、昭和六三年三月五日ころ、右土地及びビル(以下併せて「大阪岩佐ビル」という。)を一括して末野興産株式会社に、一九億六〇〇〇万円で売却し、同日ころ手付金一億九五〇〇万円を受領したこと、<3>被告人会社は末野興産から、同年六月三〇日ころ中間金二億一〇〇〇万円を、同年一一月二二日ころ残代金一五億五五〇〇万円をそれぞれ受領し、右一一月二二日ころ大阪岩佐ビルを末野興産に引き渡したこと、<4>永井孝則(以下「永井」という。)は、「大阪市西区北堀江二丁目二-三、四-五土地建物売却取扱謝礼金」という名目で、昭和六三年一二月七日付けで被告人会社宛の二〇〇〇万円の領収証を作成し、被告人会社に交付したこと、<5>被告人会社は右領収証を基に、永井に対する右二〇〇〇万円の支払を大阪岩佐ビルの経費として計上したこと、<6>しかしながら、永井は大阪岩佐ビルの取引に一切関与しておらず、右領収証は実体に合わない虚偽のものであることが認められる。

(二)  検察官は、「右二〇〇〇万円は架空の経費を計上したもので脱税に該当する。」と主張するのに対し、弁護士は、「被告人会社はそのころ二〇〇〇万円を永井に差し上げており、大阪岩佐ビルの経費ではないものの、一般経費であって法人税法二二条三項に規定する損金に該当するから、結局脱税には該当しない。」旨主張する。

二(一)  永井は、被告人岩田からお礼として五〇〇万円を出すからと言われて前記架空の領収証を書き、その報酬として被告人岩田から五〇〇万円を受領した旨供述する。これに対し被告人岩田は捜査・公判段階を通じて、永井には二〇〇〇万円を渡した旨供述する。

二(二)  被告人岩田は当公判廷において(公判調書中の同被告人の供述部分も含む、以下同様である。)、「永井の指導と協力により、これまで被告人会社の事業が成功したことに対する感謝の気持ち、並びに今後も永井との協力関係を固め同人から良い物件の情報を得たいという期待の意味での二〇〇〇万円を差し上げたものであり、同人に大阪岩佐ビルの謝礼金として領収証を書いてもらったのは、全くかかわりのない物件で同人に利益を与えるのだということを知ってもらいたかったためである。」旨供述する。

ところで、被告人会社と永井とは、それまでに幾つかの不動産取引に共同して関与してきたのであって、その利益の分配について永井の分を増加させれば、同人に多くの利益を与えることができたのであり、同人としても、どの取引で利益を得たかはともかく多くの利益を得られればよいはずであって、わざわざ同人が全く関与していない大阪岩佐ビルの取引から、被告人会社が利益を分配する必要性はない。更に、被告人岩田は捜査段階では、大阪岩佐ビルの売却益に対する税金を少しでもごまかすために永井に右領収証を書いてもらった旨供述している。したがって、被告人岩田が当公判廷において供述する、永井に大阪岩佐ビルの謝礼金である旨の領収証を書いてもらった理由は、説得力に乏しいといわざるを得ない。

(三)  他方、永井にしてみれば、同人が被告人会社から受領した金額についてより少なく供述する方が、自己の所得が減少して税金が減少し、自己に有利になるのであって、同人の供述の信用性については十分吟味する必要があること、更に、被告人岩田個人が他人に架空の領収証の作成を依頼し、脱税したケースは認められないこと、被告人岩田と永井とのそれまでの関係からして、今までの謝礼とともに今後の協力を期待して永井に金銭を差し上げることは不自然ではないことなどからして、永井に渡した金額についての被告人岩田の供述が虚偽とまで断定することはできず、結局永井に二〇〇〇万円渡した旨の被告人岩田の弁解を排斥することはできない。

三(一)  弁護人は、前記二〇〇〇万円の趣旨は、今後の不動産物件の情報提供に対する対価としての意味と今までに永井から競売入札、保留地入札及び立ち退き交渉等について様々なノウハウの伝授を受けたことに対する謝礼の意味を有していたのであり、被告人会社の収益に対する情報提供料および研究開発費に該当するのであって、法人税法二二条三項二号にいう「販売費、一般管理費その他の費用」に該当する旨主張する。

(二)  関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 被告人岩田は、被告人会社が大阪岩佐ビルの売却などで大金を入手できたので、永井に大盤振る舞いをする気になり、同人の指導と協力によりこれまで被告人会社の事業が成功したことに対する感謝の気持ち、並びに今後も永井との協力関係を固め同人から良い物件の情報を得たいという期待から、同人に二〇〇〇万円を差し上げたものであり、その際、被告人岩田には、永井に架空の領収証を作成してもらい、大阪岩佐ビルの利益を圧縮しようとの意図もあった。

(2) 被告人岩田は永井に対し、右金員を渡す前から「大阪の物件がうまくいったら一口乗せます。」と述べ、永井に対する謝礼の趣旨であることは述べてはいるが、同人がこれまでに行った具体的な行為の対価として交付したわけではないし、同人にその対価として具体的な行動を依頼したわけでもなく、同人も具体的な対価性を欠くことを十分認識していたし、その後右金員の対価と評価されるような具体的な行動を取ってはいない。

(3) 被告人会社と永井とはこれまで共同して不動産の取引に関与し、被告人岩田は永井から競売入札、保留地入札及び立ち退き交渉等については様々なノウハウの伝授を受けてはいるが、被告人会社は永井に対し、右各不動産取引の利益分配金として概ね利益額の半分を交付しており、これらに対する対価は支払済みであり、本件二〇〇〇万円と個々の取引との関連性は薄い。

(三)  以上認定のとおり、被告人岩田は、永井のこれまでの尽力に対する感謝と今後の協力関係を円滑に行うため、二〇〇〇万円を差し上げてものであり、個々の取引との関連性は薄く、租税特別措置法六二条にいう「交際費等」に該当するというべきである。なお、弁護人は、右金員は交際費等ではなく情報提供料に該当する旨主張するが、情報提供料というためには、金銭の交付があらかじめ締結された契約に基づいたものであり、提供を受ける役務の内容が当該契約において具体的に明らかにされ、かつこれに基づいて実際に役務の提供を受けることを要件とするところ、本件においては、提供を受ける役務の内容が当該契約において具体的に明らかにされておらず、抽象的に今後の協力関係を望んでいるにすぎないのであって、右要件を満たさない。また、弁護人はノウハウの伝授を受けたことに対する謝礼の意味もあった旨主張するが、それまでのノウハウの伝授については、被告人会社はすでにその対価を支払済みであり、本件で永井に交付した金員と個々のノウハウの伝授との具体的な関連性はなく、抽象的及び一般的に今までお世話になったことに対する謝礼として交付したものであるので、弁護人の右主張も失当である。

(四)  関係各証拠によれば、被告人会社は、昭和六三年五月一日から平成元年四月三〇日までの事業年度における交際費については、すでに法律上損金として算入できる金額以上の金員を使っていることが認められるから、右二〇〇〇万円について損金として算入することはできず、脱税額に加算されるというべきである。

(共同事業について)

税法においては、形式上・名義上の所得帰属者と実質的な所得帰属者が異なる場合には、実質的な所得帰属者に課税すべきことを定めた実質所得者課税の原則(所得税法一二条、法人税法一一条等)が存在する。複数の者が不動産の売買契約に関与している場合、右不動産の実質的な売買当事者は誰か、即ち誰が右売買による実際の所得の帰属者であるかという問題については、右複数の者の間で「民法上の組合契約」がなされ、右契約に基づいて、不動産を取得し、処分する場合には、右各人はいずれも当該不動産の実質的な売買当事者であると解され、租税特別措置法六三条以下の規定による「土地の譲渡等による所得」として、各人に対し、いわゆる土地重課税を課すべきである。他方、右が「商法上の匿名契約」に基づいてなされた場合には、当該不動産の売買によって生じた所得は、すべて営業者(表面に出た名義人)に帰属し、営業者に土地重課税を課すべきである。そして、共同事業性及び財産の共有性が認められる場合には、民法上の組合契約に該当すると解されるし、共同事業というためには、当該経済活動を行うことについて相互に意思の連絡があり、その意思決定に各人が主体的に関与するとともに、これを各人が主体的に実現するためにそれぞれの分担又は役割を遂行すること、その活動の結果生じた所得に対する各人の持分割合が合理的に算出できることが必要であると解される。

(姫路物件について)

一  被告人会社が、次の二筆の土地(以下「姫路物件」という。)の購入及び売却に関し、脱税した金額について検討する。

<1>  兵庫県姫路市飾磨区三宅字道ノ下一一四番二、宅地五九七・九四平方メートル(仮換地の表示)地区名・中部地区(第二工区)、符号・五一-一-一、指定地積三七七平方メートル

<2>  同市同区三宅道ノ下一一四番五、宅地二五六・八八平方メートル(仮換地の表示)地区名・中部地区(第二工区)、符号・五一-一-一一、指定地積二一〇平方メートル

(一) 検察官は、姫路物件の取引により、被告人会社の脱税した所得額は二億八五一七万〇二二二円であると主張するところ、被告人岩田は、第一回公判においては、その内一億二九七〇万九七六九円については認めたものの、その余については争い、第三回公判以降においては、第一回の認否を変更し、被告人会社が脱税した所得額は、実際に分配を受けた六二〇〇万円にとどまり、その余については否認する旨主張する。

(二) 関係各証拠によれば、姫路物件の内、前記<1>の土地については、服部喜代美の所有であったところ、平成元年一一月八日付けで永尾玲子(以下「永尾」という。)名義の所有権移転請求権仮登記が付されたこと、前記<2>の土地については、服部剛の所有であったところ、同日付けで永尾名義に所有権移転登記がなされ、いずれの土地とも、平成二年一月一六日付けで有限会社邦託商会(以下「邦託商会」という。)に所有権移転登記がなされ(右<1>の土地については、同日付けで右永尾名義の仮登記が抹消されている。)、更に同日付けで被告人会社に所有権移転登記が、同年二月二一日付けで株式会社三友(以下「三友」という。)に所有権移転登記がそれぞれなされ、三友が姫路物件の所有者となったこと、姫路物件の売買の話は、永尾から小南旭(以下「小南」という。)を介して被告人岩田に持ち込まれ、最終的には三友に転売して、被告人会社が利益を得たこと、姫路物件の合計面積は一七七・五六坪であるとして、売買代金の計算がなされていることが認められる。

(三) 弁護人及び被告人岩田は、姫路物件について、次の三段階の取引がなされた旨主張する。

(1) 永尾は姫路物件を邦託商会に対し、坪単価五〇〇万円(代金総額八億八七八〇万円)で売却した。右代金の内、坪単価一五〇万円(合計二億六六三四万円)については、裏金として授受する旨合意された(以下、「弁護人主張の第一取引」という。)

(2) 邦託商会は姫路物件を被告人会社に、坪単価六五〇万円(代金総額一一億五四一四万円)で売却した(以下、「弁護人主張の第二取引」という。)。右取引は、被告人会社、邦託商会及び小南が経営する有限会社小南興産(以下「小南興産」という。)の共同事業であり、坪単価五〇〇万円で購入した土地を同六五〇万円で売却したことによる利益は三者で平等に分配し(土地重課税相当分を除く)、被告人会社は六二〇〇万円の利益を取得した。なお、弁護人らは被告人会社が右利益分配金を脱税したことを認めている。

(3) 被告人会社は姫路物件を三友に、坪単価七〇〇万円(代金総額一二億四二九二万円)で売却した(以下、「弁護人主張の第三取引」という。)。

(四) 右(三)の弁護人らの主張の内、弁護人主張の第二取引については、理解し難いものである。「共同事業」という言葉を、「民法上の組合契約に基づく場合」とすると(この場合には、各関与者が得た利益はいずれも土地重課税の対象となるので、税法上重要な意味を有する。)、実質的な売主も買主も、被告人会社、邦託商会及び小南興産の三者で同一ということになり、結局、自分の物を自分で売却し自分で購入したに過ぎず、それによって利益が生じるとは考え難い。仮に「共同事業」という言葉を、二人以上の者が同一の目的のために力を合わせて事業を行う場合という一般的な意味に解するとしても、買主と売主とは価格を巡って利害が対立する関係にあり、同一の目的のために力を合わせるとはいい難いし、仮に売主と買主は、売買契約を成立させるという同一の目的のために力を合わせたから共同事業であるというのであれば、単に、売主及び買主という地位があるという意味と同趣旨ということになり、わざわざ共同事業という言葉を用いる必要性はない。しかも買主としては、自分が購入した土地を高値で売却することにより利益を得られるのであり、購入したことだけで利益を得られることはないはずである。また、買主としてはできるだけ安く土地を購入することによって利益を得る可能性が広がるのに対し、弁護人主張のように、共同事業による利益に関しては、買主としてはできるだけ高値で購入することによって、利益額が広がるという関係にあり、買主としては矛盾した行動を余儀なくされる。

以上検討のように、一つの物件の売買が買主と売主との共同事業であって、売主が得た利益を、買主も含めた共同事業者間で分配するという主張自体が、合理性を欠いた主張であるといわざるを得ない。

二  姫路物件の取引経緯について

(一)  関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 永尾は、兵庫県姫路市内において不動産業を営んでおり、平成元年八月から九月にかけて姫路物件を購入した。永尾は、姫路物件の手付金を支払ったものの、残代金の支払を平成二年一月に行わなければならず、資金繰りの関係から早期の売却を望み、平成元年一一月初旬ころ、以前からの知り合いで不動産業を営む小南興産の経営者小南に対し、姫路物件の買主を探すよう依頼した。小南は現地を確認してその土地は優良な物件であると判断した。

小南はそのころ被告人岩田に電話で、「姫路市内に良い土地がある。商業地で周囲の土地も値上がりしているので転売するにしてもビルを建てて一括売却するにしても事業として十分成り立つので買わないか。」と勧誘した。小南と被告人岩田とはいずれも元住友信託銀行に勤務しており、以前から面識があった。

(2) 被告人岩田は早速、小南の案内で現地を訪れたところ、姫路物件は角地の便利な位置にあり、小南から坪単価は五〇〇万円であると聞き十分採算に合うと判断し、被告人会社が購入しようと考えた。被告人岩田は小南と共に資金を融資してくれる相手を探し、日本モーゲージ株式会社(以下「日本モーゲージ」という。)からその購入資金の融資を受けられるとの感触を得た。

被告人岩田は平成元年一一月中旬ころ売主の永尾と直接会い、姫路物件の坪単価は五〇〇万円であることを確認し、契約締結に向けての話合いをした。その場で永尾は金額は名言しなかったが、売却代金の一部を裏金で欲しいと申し出た。被告人岩田は右永尾の申出を検討することとした。

(3) 被告人岩田は、被告人会社が将来右物件を転売した場合に、右裏金部分についても被告人会社の所得として課税されることになるので、永尾と被告人会社との間に他の会社を入れようと考えた。被告人岩田は、土地の転売利益にかかる土地重課税については、買主が誰でも同様に負担する必要があるが、法人税については、累積赤字を抱えている邦託商会であれば、右累積赤字の額までは法人税かかからないので、同社にその役目を依頼することとした。被告人会社と邦託商会とはそれ以前から取引があり、名古屋市中村区豊国の土地地上げの件では、邦託商会が介在して裏金を処理したことがあり、同社代表者の越喜邦(以下「越」という。)はその後も、同社には相当累積赤字があるので、裏金処理の話があれば紹介して欲しいと言っていた。

被告人岩田は永尾と会った翌日ころ、越と会い、相当のお礼を支払うから、邦託商会が永尾の要求する裏金を含む金額で姫路物件の買主となって契約し、被告人会社に転売して欲しい旨依頼した。越はその話を了解し、裏金処理は同社の累積赤字で処理すると述べた。

実際に邦託商会は、架空の領収証二枚(金額合計二億五〇〇〇万円)を用いて架空経費を計上し、所得を過少に申告して脱税したものであるが、被告人岩田は、同社が架空経費を計上して脱税するとは考えていなかった。

被告人岩田は、姫路物件の売買に邦託商会を介在させることを小南に伝え、小南はそのことを永尾に連絡した。

(4) 永尾、被告人岩田及び越間において、「<1>永尾は姫路物件を坪単価五〇〇万円で売却する。<2>永尾と邦託商会との間において売買契約書を締結する。<3>右契約書上の売買代金(表の売買代金)は、坪当たり三五〇万円(面積は一七七・五六坪)で、総額六億二一四六万円とする。<4>裏金は坪当たり一五〇万円、総額二億六六三四万円とする。」旨合意され、永尾、被告人岩田、越及び小南は、平成元年一一月三〇日ころ姫路市内の永尾の事務所に集まり、永尾が邦託商会に対し姫路物件を、坪単価三五〇万円、合計六億二一四六万円で売却する旨の契約書を作成した。被告人会社が、株式会社ジージーエスから融資を受けた資金により、右契約書記載のとおり、永尾に対し、姫路物件の手付金六三〇〇万円が支払われた。なお、このとき、越は永尾及び小南と初対面であった。

このときに、邦託商会が姫路物件を被告人会社に対し坪単価五〇〇万円、総額八億八七八〇万円で売却する旨の契約書も作成されたれ。

(5) 被告人岩田は、小南の協力を得て、姫路物件の購入資金の融資につき、日本モーゲージと交渉を継続し、同社では姫路物件の現地調査をするなどして検討した結果、平成二年一月五日ころ、被告人会社に姫路物件の購入資金として一〇億円を融資できる旨被告人岩田に回答し、同月一〇日ころ右一〇億円の融資を決定した。被告人岩田は、右融資額の決定を受け、邦託商会から被告人会社への姫路物件の売買代金を変更することとし、同月中旬ころ越と会い、同人と共に邦託商会が姫路物件を被告人会社に対し坪単価六五〇万円、合計一一億五四一四万円で売却する旨の売買契約書を作成した。右契約書の作成日は、日付をさかのぼらせて平成元年一一月三〇日付けとした。右契約書上、手付金一億一五〇〇万円とされ、右金額を受領した旨の邦託商会名義の領収証も右一一月三〇日付けで作成されたが、現実には右手付金の授受はなされなかった。

(6) 永尾に対する契約書上の残代金五億五八四六万円については、被告人会社が日本モーゲージから融資を受けた一〇億円の資金により、平成二年一月一六日ころ姫路市内の永尾の事務所で同人に対し支払われるとともに、その場で、所有権移転登記に必要な書類の受渡しがなされた。その場には永尾、被告人岩田、越、小南、日本モーゲージの担当者及び司法書士が立ち会った。姫路物件については同日付けで、邦託商会に所有権移転登記がなされ、更に同じ日に被告人会社に所有権移転登記がなされるとともに、被告人会社を債務者、日本モーゲージを債権者とする債権額一〇億円の抵当権設定登記がなされた。

被告人岩田と越の立会の上、被告人会社が日本モーゲージから融資を受けた資金により、同月一九日ころ名古屋市内において、永尾に対し姫路物件の売買代金の裏金として二億二〇〇〇万円が支払われた。なお、その場には小南も立ち会った。

(7) 被告人岩田と小南は、姫路物件上にビルを建築して土地とともに売却することを計画していたが、小南が、平成二年四月から姫路市内において、三〇〇平方メートル以上の売買については国土利用計画法上の規制区域になるようだとの情報を得たことなどから、同人は被告人岩田に早く売却した方がよいと強く勧めた。

小南が被告人岩田に姫路物件を紹介した際、その売却については、被告人会社と小南興産の共同事業とする旨の合意がなされており、右合意に基づき、被告人会社は小南が探してきた三友に売却することとし、同年一月二六日ころ、被告人会社が姫路物件を三友に坪単価七〇〇万円、総額一二億四二九二万円で売却する旨合意し、その旨の契約書を作成した。この日、被告人会社は三友から手付金として一億三〇〇〇万円を小切手で受領した。被告人会社は三友から同年二月二一日ころ、残代金の一一億一二九二万円を受領し、三友に対し、所有権移転登記に必要な書類を交付した。右契約及び残代金の決済には、被告人岩田のみならず小南も立ち会った。この取引で、被告人会社は小南興産に対し仲介手数料名目で現金一八〇〇万円を分配金の一部として交付した。なお、小南興産は三友から仲介手数料として三〇〇〇万円を受け取った。

(二)  関係各証拠によれば、右二(一)のとおり認定できるが、争点について右のとおり認定した理由を説明する。

(1) 永尾が平成二年一月一九日ころ名古屋において受領した裏金の額について

<1> 永尾及び小南は、その金額は二億二〇〇〇万円であった旨供述している。小南は実際に受領した札束の数を数えており、同人も受領した金額を知る立場にあった。これに対し、被告人岩田は当公判廷において、そのとき永尾に二億円弱のお金を渡した旨供述しており、金額に差がある。

<2> 関係各証拠によれば、永尾及び小南は、永尾が右裏金を受領していたこと自体を国税の捜査官には隠しており、検察官に対しようやく供述するに至ったものであることが認められ、永尾としては裏金の授受はできれば隠しておきたい事柄であることは明らかであり、しかも同人は受領した裏金の額が多ければ、それだけ多くの税金を納めなければならない立場にあり、あえて受領した裏金の額を実際よりも多額に供述しなければならない事情は何ら認められない。

<3> これに対し、被告人岩田は、検察官に対し、永尾に渡した裏金の額として「よく覚えていないが一億九〇〇〇万円か二億円だったと思う。」と供述している部分もあるものの(乙一四号証)、「その金額ははっきりしない。」と述べている部分もあり(乙一六号証)、被告人岩田自身その金額については、記憶が曖昧であることが窺える。

<4> 以上の理由から、永尾が受領した裏金は、二億二〇〇〇万円であると認定した次第である。

(2) 被告人岩田、越、永尾及び小南が、平成元年一一月二〇日ころ会合したか否かについて

<1> 被告人岩田は、捜査段階及び当公判廷において、「被告人岩田は平成元年一一月二〇日ころ、越と一緒に姫路市まで赴き、永尾の事務所で越を永尾及び小南に引き合わせた。そこでは、邦託商会を永尾に買主として紹介するとともに、永尾と邦託商会との間で裏金の条件を取り決めた。永尾と越との合意事項は、(a)永尾が邦託商会と売買契約を締結する。(b)売買代金は坪当たり五〇〇万円、総額八億八〇〇〇万円、(c)表の売買代金は坪当たり三五〇万円、総額六億二〇〇〇万円、(d)裏金は坪当たり一五〇万円、総額二億六六五〇万円、(e)永尾から邦託商会に支払われる裏金処理料は、裏金総額の約二五パーセントの約六六〇〇万円、(f)邦託商会に裏金を支払った後の永尾の取り分は約二億円ということで合意した。」旨供述している。

<2> 被告人岩田の右供述について検討すると、永尾に渡された裏金の額は、前記認定のとおり二億二〇〇〇万円であり、被告人岩田の供述する合意内容と異なること、被告人岩田は捜査段階において、永尾と越との間で取り決められた裏金処理料について、八〇〇〇万円(裏金の約三〇パーセント)と述べたり、六六五〇万円(二五パーセント)と述べたり、はっきり覚えていない旨述べたりしており、供述に変遷があることからして、被告人岩田の右供述の信用性には疑問がある。

<3> 他方、永尾及び小南とも、そのような会合があったことを明確に否定し、平成元年一一月三〇日ころに、永尾と邦託商会間の売買契約書が作成された際、永尾及び小南は初めて越に会った旨供述している。また、越は、被告人岩田の供述する平成元年一一月二〇日ころの会合については、供述しておらず、越の供述調書全体の趣旨からして、そのような会合があったことを否定している。

<4> 以上の点からして、平成元年一一月二〇日ころに会合があったとする被告人岩田の供述は信用できず、前記のとおり、越は平成元年一一月三〇日ころの売買契約書作成時に永尾及び小南と初めて会った旨認定した。

三  邦託商会の役割については、検察官は脱税のためのダミーであると主張し、弁護人は、姫路物件を永尾から購入し被告人会社に売却するとの役割を果たしており、ダミーではないし、仮にダミーであるとしても永尾のダミーであって、被告人会社との関係では売主である旨主張するので、以下検討する。

(一)  永尾と邦託商会間の取引について

(1) 永尾と被告人岩田との間で、永尾が姫路物件を被告人会社に坪単価五〇〇万円で売却することを前提に契約締結に向けての話合いがなされていたこと、永尾が売却代金の一部を裏金で支払うよう求めたため、被告人岩田は右裏金部分について被告人会社に課税されないために、邦託商会を介在させることにしたこと、越は永尾と邦託商会間の売買契約書に押印してはいるが、永尾との売買契約交渉には関与していないこと、永尾に支払った購入代金はすべて被告人会社が調達したこと、邦託商会は姫路物件を被告人会社に売却しなくてはならず、その価格も当初は永尾から購入した坪単価五〇〇万円と同額であり、邦託商会は姫路物件の購入及び売却によって何ら利益が予定されておらず、邦託商会が取引に介在したこと自体による報酬を被告人会社が支払うことになっていたことなどは前記認定のとおりであり、邦托商会は、永尾からの購入価格を決めたわけではないし、姫路物件をどの程度の価格で誰に売却するか決定する自由はなかったこと、越は、姫路物件の取引に関し、永尾と邦託商会の売買契約書に押印し、金銭の授受時には立ち会ってはいるものの、それ以外に何ら実質的な関与をしていないことが認められる。

(2) 弁護人は、被告人会社では、永尾の要求する裏金の処理ができず、邦託商会であればできたのであり、被告人会社にできないことを邦託商会ができたのであるから、邦託商会は名義上ばかりではなく実質上の買主である旨主張する。しかし、右主張も見方を変えれば、邦託商会は、永尾から求められた裏金を処理する必要がなければ、被告人会社が永尾からの直接の買主になればよかったのであり、右裏金を処理するためだけしか邦託商会の存在意識がなかったことになる。関係各証拠によれば、永尾に裏金を払う必要がなければ、邦託商会を介在させる理由がなく、被告人会社が永尾からの直接の買主になるはずであったこと、邦託商会は永尾の裏金処理、即ち永尾が脱税することを助けるためだけの存在意義しかなかったことが認められるのであり、弁護人の右主張は、邦託商会がダミーであることに沿うものであり、弁護人の右主張からしても邦託商会が実質上の買主であるとは到底いえない。

(3) 被告人岩田は、捜査段階においては、「邦託商会がダミーであったことは事実で、永尾との関係においては本当のダミーであったが、被告人会社・小南との間においては、共同事業者として平等に利益を分配したから実体のあるダミーだと考えていた。」旨供述しており(乙一五号証)、邦託商会がダミーであったことを一部認めている。なお、ダミーに平等に利益を分配したからといって、ダミーが実質的な売買当事者になるものではないことはいうまでもない。

(二)  邦託商会と被告人会社との取引について

(1) 被告人岩田は、捜査段階において、「被告人会社は、日本モーゲージと姫路物件の買付資金の借入交渉をした結果、同社は坪当たり六五〇万円までの一〇億円位を融資できるとの話であり、私や小南はそれ以上の単価で転売できると考えていたため、私は被告人会社にかかってくる土地重課をできるだけ低く抑えるため、この土地を邦託商会から坪六五〇万円で買い付ける形を取って、仕入れ原価を水増しすることにした。」旨供述し(乙一五号証)、被告人会社が負担する税金を安くするため、邦託商会を間に入れて、仕入れ原価を水増ししたことを認めていた。

(2) これに対し、被告人岩田は当公判廷において、被告人会社への坪単価を六五〇万円に増額した理由として、<1>被告人会社は日本モーゲージから一〇億円の融資を受けることができ、邦託商会に対する支払の原資ができたこと、<2>弁護人主張の第三取引による利益が相当多額になることが予想され、邦託商会に弁護人主張の第二取引の分配金を支払うことによって、邦託商会を姫路物件の取引から切り離し、弁護人主張の第三取引による利益を邦託商会には分配しないこととしたこと、<3>邦託商会に早期に利益分配金を支払う目的があったことによるのであり、被告人会社の譲渡益を圧縮する目的はなかった旨供述する。

(3) 関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

被告人岩田は、邦託商会が累積赤字を抱えておりその赤字額が埋まるまでは法人税がかからず、邦託商会を取引に介在させ、被告人会社の姫路物件の取得原価を高めることによって支払うべき税金が減少することを十分認識していたこと、被告人岩田は、日本モーゲージの被告人会社に対する融資額が一〇億円と決まったので、姫路物件の売買代金を引き上げることとし、邦託商会から被告人会社への売買価格は坪単価五〇〇万円と決まっていたのに、被告人岩田から持ち掛けて坪単価六五〇万円とし、越と共にその趣旨の売買契約書を作成したこと、右契約書において手付金は一億一五〇〇万円とされ、右金員を受領した旨の邦託商会名義の領収証も作成されているが、現実には右手付金の授受はなされていないこと、被告人会社から邦託商会に右売買代金として支払ったとされる金員の内、永尾の姫路物件の代金として支払った残額については、三重銀行中村公園前支店の邦託商会名義の普通預金口座に入金されたが、被告人岩田が右預金通帳を所持しており、越は右金員を自由に使うことができなかったこと、結局邦託商会が姫路物件を被告人会社に売却するために、越がしたことといえば、被告人岩田の言うとおりに、売買契約書に押印した程度であることが認められる。邦託商会が形式ばかりでなく実質上も売主であり、被告人会社が邦託商会から姫路物件を購入したのであれば、買主が自らの一方的な提案によって、売買代金を坪単価五〇〇万円から六五〇万円に引き上げるという経済的に不合理な行動を取る理由はないし、被告人岩田が当公判廷において供述する理由がそれを合理的に説明するものとはいえない。右認定の越と被告人岩田との関係や売買代金を引き上げた経緯などからして、被告人岩田が捜査段階において供述しているように、被告人会社が姫路物件を将来転売した際の譲渡益を圧縮するという被告人会社の利益のために、売買単価を引き上げたものと十分認められ、被告人岩田の当公判廷における前記供述は信用できない。

(三)  以上検討のとおり、姫路物件については、形式上は、永尾から邦託商会へ、更に邦託商会から被告人会社へ二度売買されたことになっているが、邦託商会は実質的な売買当事者ではないことはもとより、前記の意味での共同事業者にも当たらない。永尾は姫路物件を被告人会社に対し坪単価五〇〇万円で売却したものであり、邦託商会の役割は、永尾との関係では同人に対する坪単価一五〇万円の裏金を処理するためのものであり、被告人会社との関係では、被告人会社の取得原価を形式上引き上げることにより、将来転売した際の譲渡益を圧縮するという目的のために関与したに過ぎず、永尾及び被告人会社の脱税のためのいわゆるダミーとして関与したものと認められる。

四  被告人会社の脱税額について

(一)  関係各証拠によれば、被告人岩田は越に対し、邦託商会が姫路物件の取引に関与したことに対する報酬等の趣旨で平成二年五月三一日ごろ七〇〇〇万円を分配したこと、更に被告人岩田は越に対し、邦託商会が形式上、姫路物件を永尾から購入して被告人会社に転売して得た譲渡益に対する土地重課税の支払原資として、同年一二月二八日ころ四〇〇〇万円を、平成三年一月一八日ころ四〇〇〇万円を分配したこと(なお、邦託商会の決算日は一〇月末日である。)、被告人会社は当時越に対し二〇〇〇万円位の貸付金があったので、実際には、右合計一億五〇〇〇万円からその金額を差し引いて渡したことが認められる。

(二)(1)  被告人岩田は捜査段階において、「被告人岩田は越に対し、姫路物件の関係で、相殺した二〇〇〇万円を含めて総額二億円位を渡しており、平成二年二月二七日に三重銀行中村公園前支店の邦託商会名義の普通預金口座から払い戻した五七六七万円は、永尾の税金のかぶり分の一部として越の渡したものと思う。」旨供述している。更に、被告人岩田は当公判廷において、「平成二年二月六日時点において、右邦託商会名義の普通預金口座の残高が五七六七万三一五九円になった。右通帳の印鑑は越が持っていたところ、被告人岩田は同月七日ころ越に対し、右通帳を渡して右預金残額相当額を支払うとともに現金九〇万円を交付した。右金員は邦託商会が永尾の裏金を処理したことの報酬である。」旨供述する。

(2)  越は検察官に対し右事実を否定していたものの、当公判廷において、被告人岩田の公判供述のように、「私は被告人岩田から、平成二年二月七日ころ、右残高の普通預金通帳と現金九〇万円の交付を受けた。右金員は被告人岩田から報酬の趣旨でもらったものである。右金員は前記(一)の一億五〇〇〇万円とは別口のものである。」旨供述するに至った。

(3)  越にとって、被告人岩田から右預金通帳残高相当額等の金員を受領したことは自己の所得が増えるのであって、自己に不利益な事柄であるのにあえて供述していること、その内容も具体的であること、被告人岩田も捜査段階から一貫して越には二億円以上渡している旨供述していることからして、右事柄に関する被告人岩田と越(同人に関しては公判供述)の供述はいずれも信用できるものであり、被告人岩田は越に、姫路物件の取引に関し、平成二年二月七日ころ普通預金口座の残高が五七六七万三一五九円の邦託商会名義の普通預金口座の通帳を渡すことによって、同金額相当の金員を交付するとともに、そのころ現金九〇万円を渡したことが認められる。

(三)  姫路物件の売上原価中の土地代金について

(1) 邦託商会は実質的には姫路物件の売買当事者ではなく、同社の役割は、永尾との関係では同人に対する坪単価一五〇万円の裏金を処理するためのものであり、被告人会社との関係では、被告人会社の取得原価を形式上引き上げることにより、将来転売した際の譲渡益を圧縮するという、永尾及び被告人会社の脱税のために関与したものであること、永尾は姫路物件を被告人会社に対し、坪単価五〇〇万円であるが、契約書上は坪単価三五〇万円、残りの坪単価一五〇万円については裏金として授受するという条件で売却したこと、永尾は被告人岩田から右裏金として二億二〇〇〇万円を受領したことは前認定のとおりである。

(2) ところで、永尾が受け取るべき裏金の額は、坪単価一五〇万円で一七七・五六坪であるから合計二億六六三四万円になるが、永尾は被告人岩田から二億二〇〇〇万円しか受領していない。永尾がその差額について、「税金対策のために裏金の中から相当額を差し引かれることは当然であり、同人自身右差額は被告人岩田の方で税金対策のために使うと考えていた。」旨供述しており、同人は裏金の額が二億二〇〇〇万円に過ぎなかったことについて、被告人岩田に不満を述べてはおらず、差額は税金対策に用いられていることを納得している。

(3) 被告人岩田は当公判廷において、永尾に渡した裏金の金額は二億円であることを前提として、「右二億六六三四万円から二億円を控除した六六三四万円を、越に対し永尾の税金のかぶり分として渡したが、その内訳は、被告人岩田が越に、平成二年二月七日ころ交付した残高が五七六七万三一五九円の銀行預金通帳と現金九〇万円並びに同年五月三一日ころ分配した七〇〇〇万円の内の八〇〇万円である。なお、右五月三一日ころ交付した七〇〇〇万円の内の六二〇〇万円は、邦託商会に対する姫路物件の取引による利益の分配金である。」旨供述する。

(4) 被告人岩田が永尾に渡した裏金の金額が二億二〇〇〇万円であることは前述のとおりであるが、被告人岩田が越に渡した金員の中には、被告人岩田の供述どおり永尾の裏金処理料も含まれていると認められ、その額は、永尾と被告人会社とが裏金の額として合意した前記二億六六三四万円から永尾が現実に受領した二億二〇〇〇万円を控除した四六三四万円と認めるのが相当であり、右認定は永尾及び被告人岩田の意思に合致するというべきである。

姫路物件の売買代金は、永尾と被告人会社間において、坪単価五〇〇万円の合計八億八七八〇万円と合意されたものであり、そのうち右四六三四万円については、被告人岩田から直接越に交付されてはいるが、永尾が越に対して支払うべき裏金処理料を、被告人岩田が永尾に代わって越に支払ったに過ぎないものと認められ、右金員についても売上原価中の土地代金に含めるべきものである。したがって、右永尾からの仕入代金は、表の代金六億二一四六万円及び裏金としての代金二億六六三四万円の合計八億八七八〇万円であると認められる。

(四)  脱税経費について

(1) 被告人岩田が越に対し、姫路物件の所有権取得段階における費用として交付した金員は、前記(一)及び(二)(3)認定の合計額二億〇八五七万三一五九円になるが、右金額から右(三)(4)記載の四六三四万円を控除した一億六二二三万三一五九円については、脱税経費であって、被告人会社の所得の算定にあたっては経費とはならないと解される。

(2) 弁護人は、被告人会社が姫路物件の所有権を取得したのは、被告人会社と小南興産との共同事業によるものであり、右脱税経費については、両社の取得した利益の割合に応じて被告人会社と小南興産とで分担すべきもので、被告人会社が右脱税経費全額を所得に加算されるのは相当ではないと主張する。

(3) 関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

<1> 小南興産の代表者小南は、永尾から姫路物件の買主を探して欲しいと依頼され、被告人岩田に同物件を購入するよう勧誘した。被告人会社が右物件の所有権を取得するまでの間、小南は、被告人岩田を現地に案内し、永尾に引き合わせ、被告人岩田と共同で日本モーゲージとの交渉を行い、永尾と被告人会社との契約時、残代金及び裏金の各支払時に立ち会った。永尾は小南に対し、被告人会社を紹介したことと売却代金の一部を税金がかからない裏金としたことの謝礼として、平成二年一月一九日ころ、被告人岩田から受領した裏金の中から二〇〇〇万円を渡した。

<2> 脱税のため、永尾と被告人会社との取引にダミーとして邦託商会を介在させることは、被告人岩田が考え、邦託商会の越に依頼し実現したものであって、邦託商会を介在させることについて小南は関与していない。

<3> 被告人会社は平成二年一月二六日ころ姫路物件を三友に売却し、同年二月二一日ころには残代金全額を受領した。被告人会社は小南興産に対し、右残代金の決済日に仲介手数料名目で一八〇〇万円、同月末か翌三月初めころ、姫路物件の利益の分配金として六二〇〇万円渡した。小南興産は、被告人会社との共同事業者として、姫路物件の売却先を探すという役目を負っており、小南が買主である三友を探してきて、姫路物件の売却に至ったものであり、小南興産に分配された右各金員は、被告人会社が姫路物件を三友に売却したことによって得た利益を分配したものである。

(4) 不動産の取引に複数の者が関与した場合、その複数の者の間で共同事業性及び財産の共有性が認められる場合には、民法上の組合契約に基づくものであり、右複数の者は、いずれも実質的には不動産売買契約の当事者というべきである。その場合には、所得は右複数の者に各持分割合に応じて分配されることになり、右所得の中には経費であることを否認される脱税経費も含まれることから、小南興産が、永尾からの姫路物件を購入した実質上の買主の一人であるとすれば、小南興産も前記(1)記載の邦託商会に対する脱税経費を負担すべきである。

被告人会社が姫路物件を購入し、その所有権を取得する過程で、小南は前述のように色々と関与しているが、小南は永尾から姫路物件の買主を探して欲しいと依頼されて右取引に関与し、被告人会社との取引終了後には永尾から手数料を受領しているのであって、被告人会社に同物件を購入してもらうという仲介者としての役割が中心であったというべきである。そして、被告人岩田が自分の判断で姫路物件を購入するか否か決めたものであり、その購入費用は被告人会社が全額負担していることなどの事情及び前記(3)で認定の諸事情を考慮すれば、永尾から姫路物件を購入したのは被告人会社一人であって、小南興産は右物件の共同買主ではないと認められる。これは、小南及び被告人岩田の認識にも合致するものである(被告人岩田は、姫路物件を取得したのは被告人会社一人であることを前提として供述しており、姫路物件が被告人会社と小南興産との共有物件であるということは一言も述べていない。)

(5) 以上検討のとおり、姫路物件を永尾から実質上購入したのは被告人会社一人であって、右購入の段階で生じた費用として越に支払った脱税費用(永尾の負担分を除く)はすべて被告人会社が負担すべきである。

(6) 検察官は、登記料のうち、<1>六一七万九七〇〇円(今西司法書士)及び<2>二〇一万〇九八〇円(右同)の合計八一九万〇六八〇円は、ダミーとして介在させた邦託商会名義に所有権移転登記等するのに要した登記料であり、脱税経費であって経費として否認すべきであると主張する。関係各証拠によれば、右<2>二〇一万〇九八〇円については脱税経費であると認められるので、経費として否認すべきであるが、右<1>六一七万九七〇〇円については、脱税経費であると認めるに足る証拠はない。右登記料は、被告人会社の公表帳簿には姫路物件の売上原価として計上されており、同記載のとおり同物件の売上原価の一部であると認められる。

(本陣物件について)

一(一)  名古屋市中村区本陣通三丁目四三番一ないし五、宅地、面積合計一〇四七・九一平方メートル(以上の五筆の土地を併せて「本陣物件」という。)の取引について検討する。

(二)  関係各証拠によれば、青山喜美子(以下「青山」という。)が本陣物件を所有していたこと、本陣物件については、平成二年二月二八日付けで青山から永井孝則(以下「永井」という。)に、同年五月三〇日付けで永井から株式会社東海銀行(以下「東海銀行」という。)にそれぞれ所有権移転登記がなされ、同銀行が本陣物件の所有権を取得したこと、被告人会社は永井が本陣物件を購入するときに三億二三〇〇万円弱の資金を提供していること、被告人会社は右取引により、少なくとも二億円近い所得を得ていること(被告人会社が得た所得の額については、検察官と被告人岩田とで争いがあるので、後に検討する。)が認められる。

(三)  検察官は、被告人会社と永井との民法上の組合契約による共同事業により、青山から本陣物件を購入し、東海銀行に売却したものであって、被告人会社が右取引によって得た所得は租税特別措置法六三条以下に規定する「土地の譲渡等による所得」に該当する旨主張するのに対し、弁護人は、右所得は被告人会社が永井に金員を貸し付けたことに対する謝礼であり、単なる法人所得にとどまるものである旨主張する。

二  関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

<1>  青山は、本陣物件を売却したいと考え、平成元年一一月ころ親戚の山森昌勝(以下「山森」という。)に相談した。青山は本陣物件を東海銀行を賃貸しており、同土地上には同銀行則武支店の建物が建っていた。

<2>  山森は、個人で不動産業を営む知人の永井に本陣物件売却の話を伝えた。永井は現地を調査し、本陣物件内には地下鉄の出入口があって交通の便も良いので、東海銀行に底地を売却するか、同銀行に立ち退いてもらい、隣接する駐車場用地も取得して一緒に売却すれば儲かると考えた。

<3>  永井には本陣物件を購入するだけの資金がなかったので、それまで一緒に仕事をしたことのある被告人岩田に対し、本陣物件について説明した上、「周りの土地も上がりそうだし、東海銀行に売ってもよい。利益は折半ということで一緒にやらないか。資金の方をお願いしたい。」と持ちかけ、被告人岩田は「判った。金の方はまかせてくれ。一緒にやろう。」とその話を了解し、被告人会社が資金の調達や金銭の管理を行い、永井が地主の青山との交渉や売却の交渉をするという役割分担を決め、被告人会社の報酬は、本陣物件売買の租利の中から必要経費を差し引いた純利益を折半するという約束で、永井と被告人会社との共同で、本陣物件を購入し売却することとした。被告人会社はその後本陣物件に関する資金を提供しているが、その際金銭消費貸借契約書は作成されておらず、利息や期限等の定めもなかった。

<4>  永井は、山森と本陣物件の売買代金額の交渉を行い、坪単価三二〇万円弱で国土利用計画方に基づく届出をし、その指導価格で取引をすることとした。永井は被告人岩田に対し、本陣物件の交渉経過について話すとともに、右山森と合意事項について被告人岩田の了解を得た。山森から売買代金の内一割位は裏金にして欲しいとの話があり、永井はそのことについても被告人岩田の了解を得た。

<5>  永井と青山は平成元年一二月一日、本陣物件について坪三二〇万円弱で国土利用計画法に基づく土地売買等届出書を名古屋市長宛に提出したところ、売買限度額を平方メートル当たり五六万一〇〇〇円(坪単価一八五万円余)とする価格指導表の送付を受けた。

<6>  永井は右指導価格は安価なので、この価格で購入できれば多額の儲けが期待できると考えた。永井は山森に、右価格指導表の価格で購入したい旨申し込み、山森は青山に対し国土利用計画法による勧告があったので、右価格でなければ売買できない旨説明したところ、青山はその価格で売却する旨了解した。永井は被告人岩田にも右指導価格で購入する旨報告した。

<7>  永井は平成二年一月七日ころ、被告人会社の提供した資金により、本陣物件の売買契約の手付金五〇〇〇万円を支払った。

<8>  永井、被告人岩田、青山及び山森は、前記価格による国土利用計画法上の不勧告通知が送付された後の同年二月六日ころ、三重銀行名古屋駅前支店に集まり、青山が永井に本陣物件を五億八七八七万七五一〇円で売却すること、そのうち五〇〇〇万円は裏金として支払うことを確認し、青山が永井に裏金の五〇〇〇万円を控除した五億三七八七万七五一〇円で売却する旨の契約書を作成した。永井は、中間金一億円を青山に支払うとともに、山森宅で同人を通じて裏金五〇〇〇万円を青山に支払った。右支払資金はいずれも被告人会社が提供したものであった。

<9>  右売買契約の残金三億五七〇〇万円余は同年二月二八日に支払う約束であったが、被告人岩田は右残代金のうち二億五〇〇〇万円の資金の都合がつかなかった。そこで永井は、金融業者の有限会社ドンポリ商事と交渉し二億五〇〇〇万円を借りることができた。

<10>  永井、被告人岩田、青山及び山森は同年二月二八日ころ、東海銀行則武支店に集まり、残代金の支払と所有権移転登記に必要な書類の受渡しを行った。永井は、東海銀行に対する賃貸人の地位を引き継ぐことから、青山が東海銀行から受領している賃貸借の保証金三〇〇〇万円を残代金と相殺し、永井は青山に対し、残代金三億五七八七万七五一〇円を支払った。右金額のうち、二億五〇〇〇万円はドンポリ商事から借りたもので、残りの一億〇七〇〇万円余は被告人会社が提供したものであった。同日青山から永井へ本陣物件の所有権移転登記がなされた。

<11>  なお、被告人会社は、本陣物件について提供した資金合計三億〇七〇〇万円余の内二億〇八〇〇万円は永井に対する貸付金として公表帳簿に処理したが、一億円は、姫路物件で得た被告人会社の裏の資金から拠出したので、被告人会社の公表帳簿には記載しなかった。

<12>  永井は被告人岩田と相談した結果山森に一五〇〇万円のお礼を差し上げることにし、永井は同年三月上旬ころ、被告人会社の提供した一五〇〇万円を謝礼として山森に渡した。

<13>  永井は、東海銀行則武支店に本陣物件を買い取ったことを通知するとともに、同年三月五日ころ以降、同銀行本店総務部不動産管理課の担当者と、本陣物件の売買交渉を行った。永井は、被告人岩田に右交渉経過を報告し、交渉の進め方について協議した。

永井と東海銀行とは、坪単価約三九〇万円で国土利用計画法上の土地売買等届出書を名古屋市長宛に提出したところ、一平方メートル当たり一〇三万円(坪単価約三四〇万円)との指導がなされた。永井は被告人岩田とも協議の上右指導価格で東海銀行に売却することにした。

<14>  永井と被告人岩田は、本陣物件の売却によりかなりの儲けが期待できたので、両名は永井の知人の紹介で株式会社竹内重設の代表取締役竹内直剛(以下「竹内」という。)と会った上、永井が同社から本陣物件の購入資金を借り受け、高額の利益配当をしたと仮装することを計画し、同年五月中旬ころ、永井が同社から五億五〇〇〇万円を借用した旨の虚偽の消費貸借契約書を作成し、同月一八日本陣物件に同社を債権者とする抵当権設定登記を付けた。被告人会社は右登記料を負担した。

<15>  永井、被告人岩田及び東海銀行関係者らは、同年五月三〇日、同銀行本店に集まり、永井が同銀行に対し、本陣物件を一〇億七九三四万七三〇〇円で売却する旨の契約書を作成し、代金の支払と所有権移転登記及び右物件に付された根抵当権設定登記等の抹消に必要な書類の引き渡しがなされた。永井は東海銀行から、右売買代金から賃貸借契約解除による保証金の返還分三〇〇〇万円を差し引いた一〇億四九三四万七三〇〇円を、額面二億五〇〇〇万円の東海銀行振出の小切手と現金で受領した。永井はその場でドンポリ商事に対し、借入金の返済として右小切手を渡し、更に利息等として一三〇〇万円を支払った。

<16>  被告人岩田と永井は、同年五月二四日ころ、東海銀行から得る売却代金から、被告人会社が提供した資金(青山と山森に対する裏金分も含む)とその利息額、被告人会社が負担した登記費用や印紙代等の諸経費、永井が借り入れたドンポリ商事に対する利息額など、本陣物件の取引で支出されたすべての経費並びに架空領収証等を書いた竹内らに支払う脱税報酬五〇〇〇万円を差し引いて利益を算出し、この純利益が三億九〇〇〇万円になったので、右利益を折半して取得することを合意した。

永井は、前記<15>のとおり東海銀行本店で本陣物件の代金を受け取ると、これを東海銀行本店の駐車場に止めてあった被告人岩田の車内に運び、その場で被告人岩田に対し、被告人会社の利益分配金一億九五〇〇万円と被告人会社が提供した資金や経費全額に相当する金員を渡した。そのときに、永井は、被告人岩田との合意に基づき脱税に協力してくれた謝礼金として竹内らに渡す五〇〇〇万円を取得したが、永井は四〇〇〇万円を竹内らに渡し、一〇〇〇万円は自分で取得した。

三  前記二の事実認定の補足説明

(一)  被告人会社が受領した金員について

(1) 被告人岩田は、当公判廷において、前記二<16>認定の永井と被告人会社との利益分配の際には、被告人会社が前記二<12>認定の山森へ渡す裏金として支出した一五〇〇万円を計算に含めず、右利益分配において、永井は二億一〇〇〇万円取得し、被告人会社は一億八〇〇〇万円を取得したにすぎない旨主張する。

(2) 関係各証拠によれば、前記二<16>認定のとおり、永井と被告人岩田とは、本陣物件を東海銀行に対し、一〇億七九三四万七三〇〇円で売却することがきまった後の平成二年五月二四日ころ、被告人会社が提供した資金とその利息額、被告人会社が負担した登記費用や印紙代等の諸経費並びに永井が借り入れたドンポリ商事に対する利息額、架空領収証等を書いた竹内らに支払う脱税報酬五〇〇〇万円など、すべての経費を差し引いて利益を算出し、その純利益が三億九〇〇〇万円になったので、その利益を永井と被告人会社とで折半することとし、各一億九五〇〇万円ずつ取得する旨合意したこと、右計算においては被告人会社が山森に渡す裏金として支出した一五〇〇万円も当然含まれていること、被告人岩田が右利益額を算出し、永井もそれを納得したことが認められる。

(3) 被告人岩田は捜査段階において、右利益の算出にあたっては、山森への裏金も経費として計算に含めたこと、被告人会社と永井とは一億九五〇〇万円ずつ利益を分配したことを認めているところ、右供述部分は永井の捜査段階における供述とも一致し、十分信用できる。

これに対し、被告人岩田の当公判廷における供述は、山森への裏金が経費として計算されていない根拠も、利益の分配において、永井の方が被告人会社より三〇〇〇万円も多額であった理由について明確に述べていないし、永井の方が三〇〇〇万円多く取得したのであれば、その旨の話合いがなされてしかるべきなのに、そのような話合いがなされたことは証拠上窺えないことからしても、被告人岩田の当公判廷における右供述は信用できない。

(4) 関係各証拠によれば、被告人会社が本陣物件の取引によって現実に得た利益は、資金提供に対する利息及び保証料名目の一六六〇万四二七三円及び前記二<16>認定の一億九五〇〇万円、合計二億一一六〇万四二七三円であると認められる。

(二)  被告人岩田と永井との当初の約束について

(1) 被告人岩田は当公判廷において、被告人会社は永井に、年十数パーセントの金利の約束で資金を提供したにすぎず、永井が被告人会社に本陣物件の利益額の半分を渡した理由は判らない旨供述する。

(2) 被告人会社は本陣物件に関し、三億二三〇〇万円弱の資金を提供しているが、右(1)の約定で被告人会社が永井に資金を提供したに過ぎないとすれば、被告人会社が資金提供に対する利息及び保証料名目で受領した一六六〇万円余がそれに対応すると考えられる金額であり、永井が被告人会社に対しそれに加えて、本陣物件の利益として、一億九五〇〇万円もの大金を分配をする理由は全くない。

被告人岩田は、当公判廷において、永井が今後の被告人会社からの資金援助を期待したのではないかと推測するが、被告人会社が今回提供できた資金は三億二三〇〇万円弱に過ぎず(その余の資金の手当てができなかった。)、その程度の今後の資金援助を期待して、一億九五〇〇万円もの利益を渡すということは、経済的合理性を全く欠いたものであり、被告人岩田の推論は合理的ではない。

前記認定のとおり、被告人会社と永井は、本陣物件の利益から経費を差し引いた純利益を、お互いが半分ずつ取得しているのである。永井が被告人会社に対し、お礼の金員を渡すのであれば、永井の裁量によってその金額が決められるものであり、被告人岩田と永井が利益額を算出して、利益を折半する必要性は全くない。

被告人岩田も捜査段階においては、当初から転売利益を折半ということで被告人会社が本陣物件の取引に関与することとなり、平成二年五月二四日ころに本陣物件の利益を算出し、利益を折半することが明確に決まった旨供述しており、金利は年十数パーセントの約束で資金を提供した旨の供述はしていない。

以上の理由から、被告人岩田の当公判廷における右供述は信用できず、関係各証拠から前記二<3>のとおり認定した。

四  共同事業について

(一)  前述のとおり、複数の者が不動産の売買に関与しているとき、右複数の者の間で「民法上の組合契約」がなされ、右契約に基づいて、不動産を取得し、処分する場合には、右各人はいずれも当該不動産の実質的な売買当事者であると解されるし、共同事業性及び財産の共有性が認められる場合には、民法上の組合契約に該当すると解される。

(二)  本件において、<1>永井と被告人岩田とは、当初から、本陣物件の取引から得た純利益を永井と被告人会社とが折半して取得するという約束で、被告人会社が資金調達、永井が地主との交渉や売却先を探すなどの役割分担を決めていること、<2>被告人会社が資金を支出する際、金銭消費貸借契約書は作成されておらず、利息や期限等の定めもないこと、<3>被告人会社の提供する資金の使途は具体的に決まっており、いずれも本陣物件に関する費用の支払に充てられていること、<4>購入及び売却に関し、永井は被告人岩田に交渉経過について説明し、被告人岩田と相談の上交渉を進めていること、仕入金額、売却金額について、永井一人で決定することなく、被告人岩田も了解の上決定していること、<5>本陣物件の購入及び売却の各契約の場、代金決済の場には被告人岩田が同席していること、<6>当該土地が売却される際、被告人岩田も合意の上各人に配当される金額を計算していること、その計算方法は、収入から経費を差し引いた純利益を折半しており、各人の受け取った配当金額の計算方法が明らかであること、<7>被告人会社が単に資金を貸したに過ぎないのであれば、一六六〇万円余がその利息に相当すると考えられる金額なのに、永井がその約一二倍もの一億九五〇〇万円を本陣物件の利益分配金として被告人会社に交付していること、<8>被告人岩田は本陣物件の脱税工作に関与していることなどの事実が認められるのは前記認定のとおりであり、関係各証拠によれば、本陣物件は永井名義であるが、被告人岩田との間においては、永井の一存で本陣物件全体を勝手に処分できず、被告人岩田の了解を要するという意味で共有性も認められるというべきである。

(三)  以上検討のとおり、本陣物件の購入及び売却は、被告人会社と永井との「民法上の組合契約」に基づいてなされた共同事業であり、被告人会社の得た所得は、土地の譲渡等による所得であって土地重課の対象となるものと認められる。

五  弁護人は、被告人会社は、本陣物件で得た利益の内九〇〇〇万円を平成三年四月期に申告したし、残額である九〇〇〇万円(弁護人は被告人会社が受領したのは一億八〇〇〇万円であると主張している。)についても、翌年申告のつもりで帳簿に記載していたから、脱税には該当せず、被告人岩田には脱税の意図はなかった旨主張するが(被告人岩田は、納税資金が不足していたため、納税できる範囲の所得しか申告しなかった旨供述する。)、一定の事業年度の得た所得については、当該事業年度に対応する申告時期に申告すべきものであり、恣意的に一定の所得を申告しなかったことが脱税に該当することは明らかであり、それは次年度以降に申告する意思があろうとなかろうと同様である。弁護人の右主張は主張自体失当である。

(道下物件について)

一  被告人岩田は当公判廷において、名古屋市中村区道下町三丁目二三番の二、三、六、七、九の土地(実測面積合計一二三・五一平方メートル)及び同土地上の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の建物(以下併せて「道下物件」という。)の取引に関し、被告人会社は株式会社大恵産業(以下「大恵産業」という。)に対し、購入資金と名義を貸しただけであり、大恵産業が利益を得たものであって、被告人会社は右取引からは何ら金銭的な利益を受けていない旨主張する(捜査段階においても同趣旨の弁解をしている。)

二  関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

<1>  道下物件は、足立稔(以下「足立」という。)の友人が購入したものであるが、足立がその購入資金を支払ったことから、同人が所有権の登記名義人であった。三重銀行中村公園前支店の支店長は大恵産業取締役の越喜邦(以下「越」という。)に、同銀行の債権回収のため、担保となっている道下物件の処分を依頼した。大恵産業は、被告人岩田、越及び越の内妻の西尾智津子が出資して設立した会社であり、代表取締役は右西尾と登記されていたが、実際には越が実権を握っており、被告人岩田も同社の取締役であった。

越は、現地を見に行き、多少の転売利益が見込める物件であると考え、足立と会い、総額五四二〇万円で大恵産業が道下物件を購入する旨合意した。

<2>  しかし、大恵産業には購入資金がなかったため、越は道下物件購入の話を被告人岩田に伝え、被告人岩田も現地を見た上で、転売利益が見込めると判断し、被告人会社が関与することになった。

<3>  足立、岩田、越らは、平成二年五月一五日ころ、大恵産業の事務所に集まり、足立が被告人会社に対し、道下物件を総額五四二〇万円で売却する旨の契約書を作成し、被告人会社がその場で足立に約定の手付金五〇〇万円を支払い、大恵産業は立会業者として記名押印した。なお足立は契約当日に、買主が大恵産業ではなく被告人会社であることを知ったが、越が大恵産業も被告人会社も一緒だから問題はない、手数料は不要である旨述べたので、足立は被告人会社との取引に応じた。

被告人会社は足立に対し、右契約書の約定どおり、平成二年六月一五日ころ右契約の残代金四九二〇万円を支払ったが、越もその場に立ち会った。足立はそのとき、所有権移転登記に必要な書類を被告人岩田側に渡した。右四九二〇万円は、被告人岩田が被告人会社の裏金から捻出したものであった。なお、足立は大恵産業には右取引の仲介手数料を払っていない。

<4>  被告人岩田及び越は、道下物件の土地は法律上一年間の転売禁止となっており、被告人会社名義に所有権移転登記すると、一年間は転売できなくなるため、所有権の移転登記はせず、新たな買受人を探し、足立から右買受人に中間省略の方法で直接登記することにした。

<5>  大恵産業では、道下物件の売却について三回新聞広告を出した。野村則夫こと盧武夫(以下、「野村」という。)は、平成二年八月ころ新聞の広告欄を見て道下物件を知り、仲介業者と記載されていた大恵産業に電話し、同社従業員から現地を案内され、購入しようと考えた。野村は、取引銀行から融資を受けられることになったので、値切らず、広告に乗っていた六三五〇万円で道下物件を購入することにし、手付金なしで、契約と同時に代金全額を支払う旨大恵産業に伝えた。

<6>  中間省略の所有権移転登記をするのに必要であるため、越は足立に対し、新たな契約書に署名押印するように依頼した。足立は、売買代金が六三五〇万円で買主欄が空白の契約書を渡されたため、それでは約九〇〇万円余も余分に利益を得たことになって課税されては困るとしぶったが、越は絶対に迷惑をかけないからと説得した。足立は右契約書に署名押印した。

被告人岩田は、道下物件は被告人会社が足立から購入し、被告人会社が野村に売却するもので、前記足立と野村間の売買契約書に関し足立は一切責任がない旨の念書を、足立に書いて渡した。足立は、実際には支払っていないのに、同人が大恵産業に対し、仲介手数料として一九六万五〇〇〇円、内装(改装)工事代金として七三三万五〇〇〇円の合計九三〇万円を支払った旨の領収証二通を越から受け取った。

<7>  野村、被告人岩田、越及び司法書士らは、平成二年九月二八日に、野村の取引銀行である愛知商銀に集まり、足立が野村の道下物件を六三五〇万円で売却する旨の契約書を作成し、大恵産業は立会業者として右契約書に名を連ねた。野村はその場において、購入代金の内二〇〇〇万円を愛知商銀の銀行保証小切手で、残りは全額現金で支払い、所有権移転登記に必要な書類を受け取った。右小切手は、三重銀行中村公園前支店の被告人岩田名義の普通預金口座に入金された。野村はその席で大恵産業に対し、仲介手数料として一九六万五〇〇〇円を現金で支払い、その領収証を受け取った。

<8>  大恵産業の三重銀行中村公園前支店の口座に、野村から右売買代金を受領した平成二年九月二八日に三八九万円が入金されているが、内約半分の一九六万五〇〇〇円が野村からの仲介手数料である。大恵産業の帳簿には、足立から実際には仲介手数料を受け取っていないのに、足立と野村の双方から仲介手数料を受け取った旨記載されている。

三(1)  被告人岩田は、被告人会社が足立との売買契約に買主として記名押印したのは名義を貸したにすぎないと供述する。しかしながら、証拠上、被告人会社が名義を貸さなければならない必要性は認められない。被告人岩田は当公判廷において、法律上一年以内の転売禁止の制限があるため大恵産業が買主とはなれず、被告人会社が買主となった旨供述する。しかしながら、買主が被告人会社であっても、右制限は受けるのであり、前記認定のとおり、足立に新たな野村との契約書に署名押印させ、足立から野村へ直接所有権移転登記を経由しているのである。仮に大恵産業が真実の買主であるとしても、右のような方法をとるのであるから、被告人会社の名義を借りる必要性は全くない。他に、被告人会社の名義を借りる必要性は特段認められない。

(2)<1>  大恵産業の三重銀行中村公園前支店の口座に、平成二年九月二八日に三八九万円が入金されているが、内約半分の一九六万五〇〇〇円が野村からの仲介手数料であることは前記認定のとおりである。大恵産業の帳簿では、足立と野村の双方から仲介手数料を受け取ったことになっているが、足立は仲介手数料を支払っておらず、前記認定事実及び関係各証拠によれば、残りの一九二万五〇〇〇円は、道下物件の仲介手数料として、被告人会社が大恵産業に支払ったものと認められること、したがって、大恵産業は本件取引によって三八九万円の利益を受けていることが認められる。

<2>  他方、被告人岩田は当公判廷において、本件取引から、被告人会社は何ら利益を得ていない旨供述する。

被告人会社は足立に対し、売買代金として平成二年五月一五日ころに五〇〇万円、同年六月一五日ころに四九二〇万円を支払い、同年九月二八日にはその全額を回収している。

被告人岩田の供述を前提とすると、大恵産業は道下物件の取引により、野村からの仲介手数料を含めて約一一〇〇万円の利益を得たことになる。他方、被告人岩田の供述するように、被告人会社は大恵産業に資金を貸し付けたものであるとすると、利息等何ら被告人会社が経済的利益を受け取っていないことは、被告人岩田と被告人会社及び大恵産業との密接な関係を考慮しても不自然である。

(3)  前記認定のとおり、越は道下物件が売りに出ているとの情報を入手し、購入価格を決定していること、更にその売却についても、大恵産業が積極的に関与していることが認められるものの、大恵産業としても前記のとおり三八九万円の利益を得ているのである。

他方、被告人岩田も現地を見た上で、転売利益が見込めると判断し、道下物件の取引に関与することになったものであること、被告人会社は、足立との契約書に買主として記名押印していること、右物件の購入代金を全額負担していること、被告人岩田は、足立との契約の場及び野村との契約の場のいずれにも立ち会っていること、足立に対して、前記二<6>認定のとおり、道下物件は被告人会社が足立から購入し、被告人会社が野村に売却するものである旨の念書を書いていること及び前記三(1)、(2)で認定・判断した事実からして、足立から道下物件を購入し野村に売却したのは、被告人会社であると十分認められ、被告人会社は大恵産業に対し、金銭と名前を貸しただけである旨の被告人岩田の主張は失当である。

四  被告人岩田は、道下物件の利益はすべて越に渡した旨供述するので検討する。

(1)  野村が、道下物件の購入代金の一部として支払った愛知商銀の銀行保証小切手(額面二〇〇〇万円)が三重銀行中村公園前支店の被告人岩田名義の普通預金口座に入金されたことは前記認定のとおりである。

(2)  大恵産業の従業員で道下物件の取引に関与した川口一郎は、検察官に対し、「野村が購入代金の決済のため支払った小切手を誰が持っていったかについてははっきりとした記憶がないが、現金は全部被告人岩田が持っていった。」旨供述している。同人は、越及び被告人岩田が大恵産業の役員であることを十分承知しており、中立的な立場ということができ、同人の供述は信用できる。

(3)  越についても、「被告人岩田が右利益を受け取ったもので、大恵産業は仲介手数料以外には利益を得ていない。」旨、検察官に対し供述している。

(4)  被告人会社が何ら利益を受けていないのは不自然であることは、前記三(2)で検討のとおりである。

(5)  以上の理由からして、道下物件の利益はすべて越に渡した旨の被告人岩田の供述は信用できず、道下物件の売買による利益は被告人会社が取得したものと認められる。

(沢下物件について)

一  関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1)  被告人会社は、永井孝則から情報を得て、同人との共同事業として、名古屋市の保留地である名古屋市熱田区沢下町七〇六番の宅地二〇五・九四平方メートル(以下「沢下物件」という。)を落札し、昭和六二年七月二三日までに、その代金六二八八万円を支払い、同物件の所有権を取得した。なお、当時入札は一人一物件との制限があり、被告人会社は、永井の知人の松原宗雄の名義を借りて落札し、同年七月二三日に同人名義に所有権移転登記がなされた。

(2)  沢下物件は、名古屋市の保留地であるため、同市との間の売買契約には、五年間の譲渡及び借地権の設定禁止の条項が付され、違反した場合には名古屋市が同土地が買い戻すことができるとされ、買戻権の登記も付されていた。被告人岩田は、そのため表立って売却することはできないが、右購入資金には高い金利を払って借りた金員を当てているので、その回収を図るためと右土地の価格が相当程度値上がりしたため、永井と相談の上、売買代金相当額を売却先から借り入れたとする金銭消費貸借の形式を取る方法によって、沢下物件を売却しようと計画し、売却先を探していた。

(3)  個人で不動産売買及び仲介業を営む北川清一は、平成二年九月ころ、飲食店を経営する有限会社ボーベルカンパニーの代表者日比美奈子から、新しい喫茶店を出店する用地を探して欲しいと依頼され、業界の広告で沢下物件のことを知っていたことから、法務局で登記簿謄本を取り、登記上の所有者の松原宗雄を訪ね、売却方を依頼した。右北川は右売却交渉の過程で沢下物件の実際の所有者は被告人会社であることを知り、交渉を重ねた結果、坪当たり二〇〇万円、六二・二九坪なので代金一億二四五八万円で購入することになった。

(4)  日比美奈子は、将来の法的トラブルに備え、公正証書を作成することとし、松原宗雄らと、同年一二月三日公証人役場に赴き、有限会社愛正が松原宗雄に一億二四五八万円を貸付け、松原は右借受金を、平成四年七月三〇日限り一括返済するなどの内容の抵当権設定金銭貸借契約公正証書を作成した。なお、有限会社愛正は日比美奈子の夫である日比正美が経営する会社であり、本件土地の購入資金を銀行から日比正美名義で融資を受け、その資金を有限会社愛正が有限会社ボーベルカンパニーに貸し付けるという形式を取ったため、右のとおり公正証書においては有限会社愛正を貸主とした。

右公正証書には、「年七・九五パーセントの割合による利息を、弁済期日に一括して支払う。」旨の条項があるが、実際には当事者間において利息を支払うとの約束はなされておらず、利息も支払われていない。

(5)  被告人岩田、松原宗雄及び日比美奈子らの関係者は、同日ころ、東海銀行瀬戸支店の応接室に集まり、覚書を作成し、日比美奈子は沢下物件の土地代金一億二四五八万円を東海銀行瀬戸支店の保証小切手三通で支払い、被告人会社は本件土地を有限会社ボーベルカンパニーに引き渡した。同日、日本モーゲージ株式会社が沢下物件に付していた債務者を被告人会社とする債権額一億円の抵当権設定登記は抹消され、新たに有限会社愛正を債権者とし松原宗雄を債務者とする債権額一億二四五八万円の抵当権設定登記が同物件に付された。被告人会社は、右受け取った金員で沢下物件の購入資金としてジージーエスから借り入れた金員を返済した。

(6)  前記覚書には、有限会社愛正(以下「甲」という)、有限会社ボーベルカンパニー(以下「乙」という)、松原宗雄(以下「丙」という)、被告人会社(以下「丁」という)が署名しており、本契約は、乙が丙所有の本件土地を代金一億二四五八万円にて購入することを目的とするもので、本件土地に五年間の譲渡禁止特約が付いているため、前記目的を達成するため、甲が丙に一億二四五八万円を貸し付け、平成四年七月二三日の期限到来後に、丙は乙に対し、本件土地を代金一億二四五八万円で売却し、丙はその売買代金全額を甲に前記貸金の返済として支払うこと、なお、その時点で右代金額で国土利用計画法の届出をし、名古屋市から代金減額の勧告がなさたときは、その金額で売買契約を締結するが、甲は前記返済額が貸金元利合計額に満たない場合、残額の債権を免除することなどの便法を用いることとする旨記載されている。すなわち、国土利用計画法に基づく名古屋市からの勧告が、右売買代金額よりも低い場合であっても、甲は残額の債権を免除するのであるから、実質的には右売買代金は一億二四五八万円であり、それ以下の価格の勧告がなされても、それは甲及び乙が危険を負担するということであった。なお右覚書では乙が本件物件を買わないという選択権はなかった。

被告人岩田としては、右覚書が名古屋市に判明すれば、転売禁止条項に違反すると解釈される可能性を十分認識しており、右覚書には、それを外部に漏らさないことを相互に確認する旨の条項が入っている。

(7)  被告人会社は沢下物件を、昭和六三年一二月六日付けの駐車場一時賃貸借契約に基づき、トヨタ部品愛知共販に駐車場として賃貸していた。被告人岩田らは平成二年一一月二七日ころ、右賃貸借契約を仲介した不動産業者を通じて、トヨタ部品愛知共販の担当者に「売れるかもしれないからすぐ返す旨の念書を作成して欲しい。」と依頼し、右担当者は、賃借期限である平成二年一一月三〇日をもって返還する旨の念書を交付した。

その後同月末ころ、有限会社愛正は右土地の賃貸を承諾し、新たに同社とトヨタ部品愛知共販間において、同年一二月一四日ころ賃貸借契約書を作成した。

(8)  本件売却による利益(約三二〇〇万円強)は、被告人岩田の息子名義の預金口座に入金した上で、被告人会社で運用していた。

(9)  沢下物件について、五年間の譲渡等禁止期間が経過した後の平成四年八月一七日付けで売買契約書が作成され、翌一八日に同月一七日売買を原因とする有限会社ボーベルカンパニーへの所有権移転登記がなされるとともに、松原宗雄を債務者、有限会社愛正を債権者とする債権額一億二四五八万円の抵当権設定登記も抹消された。

なお、この時点では、現実の金銭の授受はなされていない。

二  以上の認定事実を基に検討すると、被告人会社は沢下物件を有限会社ボーベルカンパニーに売却したのにかかわらず、名古屋市との間の転売禁止条項に違反することから、売買契約という目的を達成するための便法として、金銭消費貸借契約という形式をとって、一億二四五八万円を借り入れたことにしたが、右金員は実質的には売買代金であり、被告人岩田はそのことを十分認識していたものと認められる。したがって、当該申告時期に右売買契約による収入を申告しなかったことは脱税に該当する。

(まとめ)

一  以上検討のとおり、姫路物件の取引において、検察官は、売上原価中の土地代金として、永尾玲子からの仕入代金を表が六億二一四六万円、裏が二億二〇〇〇万円の合計八億四一四六万円と主張しているのに対し、当裁判所は、表が六億二一四六万円の同額であるが、裏が二億六六三四万円(坪単価は一五〇万円)の合計八億八七八〇万円(坪単価は五〇〇万円)と認定し、更に同物件の取引において、ダミーとして介在させた邦託商会の名義に所有権移転登記等するのに要した登記料として検察官が主張している金額の内、六一七万九七〇〇円(今西司法書士)については、脱税経費と認めるに足る証拠はなく、売上原価内の登記料に含まれると認定した。右認定による姫路物件の各勘定科目明細は、別紙1記載のとおりであり、右認定の金額による姫路物件を含めた平成二年四月期の課税土地譲渡利益金額及び土地譲渡税額は、別紙2、3記載のとおり算定される。

二  平成三年四月期においては、租税公課として、前期(平成二年四月期)の所得の増加額に対する未納事業税を損金として認容しているところ、右のとおり、当裁判所が認定した平成二年四月期の所得額は検察官の主張する所得額より減少し、それに伴い必然的に同期の所得の増加額に対する未納事業税額は、検察官の主張の額(三一〇〇万〇八〇〇円)より減少し、その額は別紙4で計算のとおり二四六九万八四〇〇円となる。従って、平成三年四月期における損金の額の一部が減少し、その分だけ同期における所得額も増加することになる。右所得額は検察官主張の一億一五七二万七四九八円ではなく、一億二二〇二万九八九八円と認定したものである。

三  それ以外の点については、いずれも検察官の主張のとおり、被告人会社の所得金額及び法人税額を算定したものであり、税額計算書は別紙5記載のとおりである。

(法令の適用)

(以下、「刑法」とあるのは平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法をいう。)

一  罰条

判示第一ないし第三の行為 いずれも法人税法一五九条一項(被告人会社につき、更に同法一六四条一項、罰金刑の範囲について同法一五九条二項)

二  刑種の選択 懲役刑選択(被告人岩田につき)

三  併合罪の加重 被告人岩田につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に加重)被告人会社につき、刑法四五条前段、四八条二項

四  未決勾留日数の算入 刑法二一条(被告人岩田につき)

五  刑の執行猶予 刑法二五条一項(被告人岩田につき)

六  訴訟費用の連帯負担 刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条

(量刑の理由)

本件は、被告人会社を経営する被告人岩田が、三年間にわたり、被告人会社の法人税合計二億六九〇〇万円余を脱税した事案である。被告人岩田は、昭和六二年五月に長年勤務した信託銀行を退職し、銀行勤務時代の不動産取引の経験を生かして被告人会社を設立し、その経営にあたった。被告人会社は、専ら不動産取引により収益を上げており、その主な取引内容は土地を仕入れて転売して利益を得るもので、その他に不動産取引の仲介による利益も得ていた。被告人会社は、被告人岩田が一人で経営している会社であった。

被告人岩田は、被告人会社の経営にあたり、元々十分な資金を有していたわけではなく、事業資金の大半を金融機関からの融資で賄っていたところ、被告人会社の主な収入源である土地売買で得た譲渡利益には、土地重課制度があって正直に税務申告したのでは手元に残る利益が少なく、事業資金を蓄積し、被告人会社の基盤を強固にするために本件脱税を企てた。右のとおり、本件犯行の動機は脱税して、多くの事業資金を得たいというもので、犯行の動機において何ら酌量の余地はない。本件犯行の方法は、単純な売上の一部除外にとどまらず、ダミー会社を介在させて仕入代金を水増しする方法、土地売買の共同事業において他の共同事業者の事業として売買を公表し、被告人会社にかかる土地重課税を免れるなど、巧妙かつ悪質である。本件で脱税した金額は、平成元年四月期から同三年四月期までの三期分で合計二億六九〇〇万円余の多額に及び、逋脱率は三期分通算で九一パーセントと高い。更に、被告人会社は、脱税金額の相当部分を国税不服審判所において争っていることもあり、被告人会社が本件脱税に関し、その発覚後予納した額は六七〇〇万円余に過ぎず、延滞税及び重加算税はもとより、脱税した本税ですら完納されていない。以上の諸事項を考慮すると被告人岩田及び被告人会社の刑事責任は重い。

他方、平成二年四月期において、脱税額の相当部分を占めるのは姫路物件の取引によるものであるが、ダミーとして介在させた邦託商会に対し、報酬や土地重課税相当額として多額の金員を交付したため、被告人会社が現実に得た利益は六二〇〇万円であり、右金員も税務調査が入った後、邦託商会に修正申告後の納税資金として交付しており、被告人会社には現実の利益がなくなったこと(実質的な所得の帰属者が納税すべきであり、ダミーが自己の名で納税したとしても正当な納税にはならず、法律上、実質的な所得の帰属者が脱税したことにはかわりはないが、ダミーであってもその者が納税したという事実は量刑上被告人らに有利に考慮できると考える。)、前述のとおり被告人会社は六七〇〇万円余を予納していること、被告人岩田及び被告人会社にはいずれも前科はないこと、被告人岩田は同人なりに本件を反省していることなどの被告人両名に有利な事情も考慮して、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(検察官綿﨑三千男、被告人両名の主任弁護人中田寿彦、同弁護人近藤之彦、同村元博公判出席)

(裁判長裁判官 油田弘佑 裁判官 土屋哲夫 裁判官 松岡幹生)

別紙1 姫路物件の各勘定科目明細

<省略>

別紙2

姫路物件の配当に応じた収支分割計算書

<省略>

別紙3 平成2年4月期における超短期所有土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額に対する税額計算書

<省略>

別紙4 平成3年4月期の差引未納事業税額の計算書

<省略>

別紙5 税額計算書

<省略>

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